ある小さな物語

ある人物の
実際にあった
ストーリー

これは実際にあった人物の話です。

近しい経験をした人も多いと思います。

どんな場面でもそれは小さなことだったかもしれません。

自分が子どもだった時代、他の子たちにはどうでもいいことでも自分にとっては大きなきっかけとなったことってなかったでしょうか?

人によってそのきっかけは様々だったと思います。だからこそ画一的なものではなく将来につながる多様な経験が必要と考えています。

このプロジェクトはその頃に「こんな経験があったらよかったな」「あんな経験があってよかったな」と思える機会を多くの子ども達に与えてあげたいという想いから始まっています。子ども達の一人一人の可能性の「種」を大事にしたいと強く願います。


「ある小さな物語」

彼は教室の片隅で、いつも静かに座っていた。名前は亮(あきら)。小さな教科書に目を落とし、先生の指示に従って教科書のページをめくる。しかし、誰かに声をかけられることは滅多にない。クラスメートたちは賑やかに会話をしていたが、亮はその輪に入ることなく、自分の世界に閉じこもっていた。

亮は内向的な子どもだった。友達と話すのが苦手で、授業中に当てられても声が震え、言葉に詰まることが多かった。勉強は決してできないわけではなかったが、教室の空気に馴染むことが難しかった。「正しい答え」を求められることが多い学校生活の中で、彼は自分の心にあるアイデアや考えを話す場所がほとんどなかった。彼にとって、教室の中は何かを感じることよりも、ただ静かに存在する場所だった。

そんなある日、アートの授業がやってきた。先生は「今日は好きなものを自由に描いていい」と言い放った。亮は一瞬戸惑った。これまで学校では、いつも決まったルールに従って動くことが求められていた。しかし、その日は違った。紙の上に何を描いてもよいというのだ。何も制約がない。彼は白いキャンバスを目の前にして、自分の心がどう反応していいのかさえ分からなかった。

しばらくの間、彼はただじっとその白い紙を見つめていた。クラスの子どもたちは次々と絵を描き始める音が聞こえてくる。しかし、亮の手は動かなかった。彼は深く考えた。この紙の上に自分の何を表現すればいいのか?「正しい答え」がない状態で、彼は混乱していた。

すると、彼の中にある小さな光がふと輝いた。彼は初めて、自分の中に眠っている想像力に気付いたのだ。その光は、彼が幼い頃から抱えていた世界だった。彼は少しずつ鉛筆を手に取り、慎重に線を引き始めた。その線は、彼が頭の中で長い間描いていた「夢の世界」の一部だった。

絵は徐々に形を成していった。空は青ではなく、緑色に輝いていた。海には巨大な生き物が浮かんでおり、空を飛ぶ鳥は虹色に輝いていた。現実世界では考えられないような色彩と形が、彼の心の中から自由にあふれ出していった。周囲の雑音が徐々に消え、彼の心は完全にこの世界に没入していった。

授業が終わる頃、彼の前には壮大なファンタジーの世界が広がっていた。彼は自分でも驚くほど満足感を感じた。それは「正しい」か「間違っている」かではなく、自分自身が何を感じ、何を表現するかという純粋な喜びだった。

その日の放課後、先生が彼の絵を見てこう言った。「亮くん、すごく素敵な世界を描いたね。君の想像力はとても豊かだよ。」その言葉は、亮にとって初めての「承認」だった。彼の心に、小さな芽が生まれた瞬間だった。

それから、亮は少しずつ変わり始めた。美術の時間だけでなく、他の授業でも自分の意見やアイデアを発表するようになった。最初は小さな一歩だったが、彼は少しずつ自信を持つようになった。友達との会話も増え、彼は自分のアイデアを他人と共有する楽しさを知った。

中学生になった彼は、学校の美術部に入り、創作活動を続けた。彼の作品は学校の展示会で注目を集めるようになり、地域のコンクールでも賞を受けた。彼は自分の中にある「表現する力」が他の人に感動を与えることができると知り、そのことが彼にさらなる自信を与えた。

そして彼が大人になる頃、亮は自分の道を見つけた。彼は創造力を武器にしたビジネスの世界に飛び込み、リーダーとして成功を収めていた。彼の会社は常に新しいアイデアを生み出し、業界に革新をもたらしていた。彼のチームは、自由に意見を交換し、創造的なプロジェクトを進める文化が根付いていた。その中心には、子どもの頃に芽生えた「創造する力」があった。

亮はある日、自分のオフィスでふと、小学校時代のアートの授業を思い出した。あの時、白い紙の上に自由に描くことを許されたことで、彼の中の可能性が広がったのだ。彼はその瞬間から、ただの「内向的な子ども」ではなく、無限の想像力を持つ個人へと変わり始めたのだ。

亮は静かに微笑み、デスクの上に置かれた一枚の紙に目をやった。それは彼の子どもが描いた絵だった。彼はその絵をじっと見つめ、子どもの頃の自分を思い出した。そして心の中でこう誓った。「これからも、誰もが自分を表現できる場を作り続けていこう。」

亮にとって、成功とはただのビジネスの成功だけではなかった。それは、自分自身を自由に表現し、他人とアイデアを共有する喜びだった。そしてその喜びは、小さな教室の片隅で始まった一瞬の出来事から生まれたものだった。

彼は自分の子どもにも、そしてこれから出会うすべての人々にも、その自由な表現の場を与え続けていくことを、心の中で強く願った。